8242. 闇雲PCRでは2%しか減らせません

やるべきはクラスター対策。そして、発症した人には速やかなPCR検査を可能とすること。

限られた資源を、有効配分して欲しい。

なぜ無症状者に幅広くPCR検査をすべきではないのか。 大東文化大学で感染症の危機管理を専門とする中島一敏教授に説明していただいた。

中島さんが提示するのは二つの研究だ。

一つは、イギリスの4万人の行動データを元にした数理モデルを使ったシミュレーションの研究だ。

2万5000回の感染が起きたとして、毎週、人口から無作為に選んだ5%の人に検査を行い、しらみつぶしに感染者を探す対策を行って感染者を隔離するーー。この対策でどれほど感染が減るのかを計算した。

その結果、何も対策を打たなければ感染したであろう人のうち、2%程度しか減らせないという結果になった。裏を返せば、98%の人が感染を防げなかったということだ。

だが、母数が大きければ2%でも人数は大きくなる。社会の感染予防策としてこの2%減はどう評価できるのか。

「一人の人が感染させる人数である『実効再生産数』が2だとすると、2%減少するということは実効再生産数を0.04下げるということです。1.96ですね。2人に感染させていたのが、1.96に減っても感染は収束しません。実数として2%の感染者数が減らせるのは良いことなのですが、全体を俯瞰して見ると蔓延は防止できないのです」

「PCR検査の資源をすべて突っ込む形でこの対策をしても得られる結果が2%減というのは効率的ではない。私たちの目指すゴールではありません」

もう一つは、「COVID-19を抑えるための検査の役割」と題されたインペリアル・カレッジ・ロンドンのレポートだ。

「一般市民に対して広くPCR検査を行うよりも、日本が行っているような感染者の接触者調査をもとに対応した方が、感染予防効果は大きいと書かれています」

次に中島さんが示すのは、新型コロナウイルスに感染した人のウイルス量、PCR検査で陽性と出る時期、人に感染させる時期を示した模式図だ。

一番上の赤い線が、検査で使う喉の奥のぬぐい液のウイルス量の変化を示したもの。

発症日の2日前から発症後2日まではウイルス量が多い。その後、だんだんと減っていき、発症後10日ほどでウイルスを検出することは難しくなる。

ただ、その後もしばらくはPCR検査で陽性と出る時は続く。PCR検査はウイルスの残骸を拾って陽性としてしまうからだ。

PCR検査で陽性となる期間を示したのが2番目の水色の線。発症2日前ぐらいから陽性となり、3週間(22日間程度)陽性となり続ける。

3番目の線は人に感染させる力がある期間だ。発症の2日前から発症してから10日ぐらい、つまり発症2日前から12日間ぐらいは人への感染力がある。

ここで2番目と3番目の線を比べると、発症後10日以降は、PCR検査は陽性と出るのに、人には感染させない期間だとわかる。これが10日間程度ある。

そして、最後の緑色の線は、感染者を隔離することによって感染拡大防止に効果がある期間を示している。特に初期はウイルス量が多いので感染力が強い。

「そこから検査で見つかる日が遅くなればなるほど、感染力を持つ期間は短くなりますし、ウイルス量も減っていきますから、見つけても感染予防効果はどんどん小さくなります」

「つまり、PCR検査で無症状の人に無作為に検査をして陽性になると、陽性になる3週間のうちどこかの段階で見つけることになります。しかし、見つけて感染予防につながるのは前半の半分だけで、特に初期の頃に見つけないと感染予防効果は小さい」

「もし感染の後半で見つけて隔離や入院をさせたとしても、そもそも人への感染力がない段階ですから、蔓延防止効果はありません」

それなら、初期で発見するにはどうしたらいいのか?

「検査の間隔を詰めて、繰り返しやり続けるしかありません。少なくとも感染力のある前半10日間のどこかで引っ掛けなければいけない」

感染から日が経つと、感染力を失うことは現実の調査でも明らかになっている。台湾の疫学調査で濃厚接触者の2次感染割合を調べたところ、発病から5日以内に接触した1818人では感染率は1%だったが、6日以降に接触した852人では感染者は0人だった。

ここまで検査結果が「陽性」の場合を考えてきた。

逆に、「陰性」だった場合はどう解釈すべきだろうか?

約3週間続くPCR陽性の期間中でも、PCR検査で正しく「陽性」と判定する感度は70%程度だとされている。つまり、3割は本当は感染しているのに陰性と出る「偽陰性」だ。見逃しが3割あるとも言い換えられる。

「しかし、検査結果が陰性と出た人は、ご自身が本当に感染していない『真の陰性』なのか、本当は感染しているのに陰性と出る『偽陰性』なのかわからないわけです。検査が陰性であっても、確実に感染していないとはならない」

逆に、検査で陰性の人がその結果に安心して行動したら危ないこともある。

「『検査が陰性だったから今日は飲みに行こうか』ということになると、偽陰性の場合は、その行動によって他の人に感染させてしまうことにも繋がりかねません。『安心』の先に何があるのかを考えると、続けて3密を避けるなどの感染予防をすることが大事になります」

「検査は適正に使うことが大事です。限られた資源ですから必要な人が迅速に、確実に検査できるようにしなければいけません。無症状の人に繰り返し検査を行って見つけていこうという場合には頻度を上げる必要がありますが、それにも限界があります」

「検査が陰性の場合にも続けて感染予防行動を取っていくことが大事です。過剰な安心で行動を緩めることは、かえって感染のリスクを高めることになります」

無症状の人に検査を拡大していくことによって、高まる感染リスクには他にどういうものがあるのだろうか?

「たくさんの人を一気に検査しようとすると、検体を採取する場所に人が集まるなど、どうしても密な状況が起こりかねません。検体を取る場所だけでなく、前後の動線もあるでしょうし、人が大きく移動することを促します」

「たくさんの検査を繰り返ししようとすればするほど、たくさんの人の行動を促すことになるので、感染拡大が起きないような細かい手当が必要になります。それには検査機材や消耗品も含め、人件費も含めた手続き上のコストが高くつくことにもなります」

「発病した人が早く、漏れなく検査を受けて診断されることが大事です。そのために検査能力をさらに拡大することが必要ですし、検査は、医者が患者の診察をもとに診断する臨床診断とセットになりますから、その経験を積み重ねていくことも大事です」

しかし、発症を要件とするならば、ウイルス量が高い、発症前2日間が放置されることになるのではないか? 「無症状に検査拡大を」と訴える人がよく強調するところだ。

「約3週間ある陽性期間のうち発症前のこの時期の感染者を、事前確率の低い人を対象としたスクリーニング検査によって見つけるのは非常に困難です。濃厚接触者に対する検査では一部可能ですが、それ以外の人では事実上かなり難しいでしょう」

「検査で見つかった人を起点に濃厚接触者を見つけていく接触者調査の精度をできるだけ上げていくことが大事です。接触者調査をするのは保健所です。保健所のキャパシティは医療機関と同様に有限ですので、患者数が増えすぎると保健所の手に負えなくなる」

「患者の絶対数を減らして、保健所がしっかり調査できる状況を作っていくことが、結果的に感染者を早く見つけていくことにつながります」

時にはクラスターと呼ばれる集団感染が起きることもある。

「濃厚接触者が見つけやすいクラスターと、見つけにくいクラスターがあります。言い換えると、濃厚接触者を特定することで『閉じやすい』クラスターと、『閉じにくい』クラスターです。接待を伴う飲食店などでは、なかなか濃厚接触者が特定できない、連絡を取れないこともありますので、お店を訪れる人の連絡先の登録によって閉じにくいクラスターを閉じやすくする工夫が必要です」

保健所などでやっている接触者調査と、無症状の人に無作為に検査を繰り返す方法とで、感染防止の効果を比べた研究もある。

「ある研究では、感染者が自己隔離をして、その接触者調査により濃厚接触者を特定して自宅待機などをしてもらう対策を丁寧にやった場合、感染者は64%減少するとされています。毎週5%の住民に無作為に検査をした場合は2%しか減りません。また、感染者との接触を知らせるアプリも有効だとされています」

「接触者を把握して、その人たちの行動変容を促すことが感染拡大防止に非常に重要だということです」

「検査はすべてではなく、全体の対策の一部です。検査ですべて解決するわけではなく、トータルで対策を考えていく必要があります」 「また、検査推進派、反対派など対立の構造を作るのは意味がありません。検査を増やしたほうがいいというのは共通の思いです。ただ、使い方をきちんと考えないと意味がないものになります。色々な企業が検査を大量に売り出そうとしていますが、精度も含めて信頼できる検査が必要な時に過不足なくできる体制をつくる必要があります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/3596efc833e4197671614d25e7d3d8e96dc2f7e2?page=6

【中島一敏(なかしま・かずとし)】大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授

1984年、琉球大学医学部卒業。沖縄県立中部病院、琉球大学、大分医科大学(現大分大学医学部)を経て、2004年~14年国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官、2007年~09年世界保健機関(WHO)本部感染症流行警報対策部、警報対策オペレーションメディカルオフィサー。その後、東北大学病院検査部講師兼副部長を経て、2016年4月から現職。 専門は実地疫学、予防医学、感染症学。特に感染症危機管理やアウトブレイク対策を得意とし、新型コロナウイルス対策でも専門家として行政に助言をしている。

でも、結局、世田谷モデルは可決されたらしい。